不幸の似合う男


■グレアム先生不吉な予言を聞くの巻■

 その日、セントゥル学園に非常勤講師のユアン=リーブラが久し振りに帰ってきた。
「ユアン、久し振りだね」
「グレアム!いやぁ…新婚旅行っていうのは面倒だねぇ。妻の言いなりに付いて行ったは良いけど、さすがにレッド・ドラゴンの牙を取りに行かされるとは思ってもみなかったよ」
「スクウィーズ女史も相変わらずだね…。して、彼女は?」
「その後、ゴルゴーンの髪の毛を取りに行くと聞いて、さすがに辞退したよ。魔法士とは言っても僕の専門は占術なんでね…」
 ユアンは占術を担当する講師だ。
「グレアム、君にお土産を買ってきたんだ。シンジャのお酒でね…」
 背負っていたリュックから酒瓶を取り出そうとして、他の荷物まで落としてしまう。衣類はなく、ガラクタしか入っていなかったようだ。水晶玉がゴロゴロと音を立てて散らばる。
「ここ、床板歪んでるね。東に傾いてる…」
「ルファールに交渉して修理してもらうと良いよ」
 グレアムは苦笑いをした。《ダイヤ》の研究室は大抵、床が悲鳴を上げるくらい書物がぎっしり詰まった書架が置かれている。ユアンの隣に居を構えているのは引きこもり魔女エマ=ケフェウスだ。あの研究室に人間2人が並んで通れるスペースはない。一人がせいぜいなくらい書架が群れをなして押し込まれているのだ。エマの研究室の方に床が沈むのも無理はなかった。
「そうだ!折角だから、占いでもしようかな…」
 ユアンは床に散らかしたままの水晶玉を7つ、距離を置きながら、それらを繋ぐと円になるように並べて、円の中心に自らが座った。
「さて…何を占おうか…?」
「今年から常勤になった者たちはどうかな?」
「あぁ、上手くやっていけるか心配だしね」
 ユアンは精神を集中させて、水晶の輝きに目を凝らす。
「…《スペード》の、セレヴィくんだったか?彼は今年は波乱の年となる。彼の前に様々な問題が振りかかるだろう…だが、それらは全て無事に解決するだろう…」
「ほぅ…」
「だが――彼は…」
「彼は?」
「小さな不幸をまるで砂鉄を引きつける磁石のように引き寄せてしまう。まぁ、平たく言えば不運という星の下に生まれたようだ」
 グレアムはセレヴィを思い浮かべて納得した。学生時代の彼は誰もしないようなミスを犯しては怪我をするというような理解に苦しむ部分を持ち合わせていた。
「――さて、《ハート》の、マキュアくんはだね…彼女は運の強い女性だ。特に金銭面での困難は一切なさそうだ。だが…残念ながら婚期は遅れると出ている…」
「そうか…」
「今年は面白い年になりそうだぞ」

まずは1発目、「グレアム先生不吉な予言を聞くの巻」でした。
100題から「落ちる」でした。
どっちかっていうと「散らばる」じゃ…(気にすんな!)